Rastafari Ephemeral Publications from the Written Rastafari Archives Project
20世紀の初頭、ジャマイカのマーカス・ガーヴェイはアフリカへの回帰を唱え、汎アフリカ主義運動の指導者として黒人民族主義運動に大きな影響を及ぼしました。ガーヴェイの思想は同時代のレオナード・ハウエルらに継承され、ジャマイカ土着の宗教にユダヤ教、キリスト教の伝統を融合した独自の宗教へと発展しました。この教義では聖書は抑圧された民族の歴史を物語るものとみなされ、とりわけ旧約聖書の預言者や新約聖書のヨハネ黙示録が霊感源となりました。
アフリカへの回帰を唱えた彼らジャマイカの黒人指導者によりアフリカのシンボル的存在として表象されたのが聖書とも縁の深いエチオピアです。そのため1930年に黒人ハイレ・セラシエがエチオピア皇帝に即位したことは、ジャマイカの黒人によって熱狂的に歓迎され、ハイレ・セラシエは救世主とみなされます。
ガーヴェイ以来展開された宗教思想は以後、ハイレ・セラシエの本名ラス・タファリ・マコンネンに由来する「ラスタファリアニズム」と自ら称し、独自の運動を展開、ジャマイカがイギリスからの独立を実現し、ハイレ・セラシエがジャマイカを公式訪問した1960年代に最高潮を迎えます。
同じ頃、ラスタファリアニズムを信奉するボブ・マーリーに代表されるジャマイカのミュージシャンのレゲエが世界的ブームになり、ラスタファリ運動が一躍、ジャマイカ国内外で注目を集めるようになりました。その一方で、レゲエが注目されるあまり、音楽がラスタファリ運動の歴史と文化を伝達する唯一のメディアであるかのようにも見なされました。
しかし、ラスタファリ運動の担い手にとっては文書も歌と同じように重要な表現手段でした。彼らは抵抗の言説を膨大な文書に残しました。そもそも、ハイレ・セラシエは皇太子時代、エチオピアの民衆教育の一環として出版社を立ち上げ、書籍と新聞の出版活動を精力的に展開、マーカス・ガーヴェイも『ザ・ネグロ・ワールド』と『ザ・ブラックマン』という二つの新聞を発行したことに見られる通り、精神的父祖自らが出版に深く関わっていました。
彼ら精神的父祖に倣い、ラスタファリ運動の活動家は書籍、パンフレット、チラシ、ポスター等の形で自身の言説を印刷する活動を続けました。また、彼らは各方面に書簡を送りましたが、書簡送付先はジャマイカの地方紙、ジャマイカ植民地政府から国連、イギリス女王にまでおよびました。これら文書によるコミュニケーションは総じて、社会正義、生活条件の改善、迫害や警官による暴行の廃止、アフリカへの帰還、奴隷制への賠償を求めるものでした。
本コレクションは、ラスタファリ運動の言説を保存するために始められたラスタファリ文書アーカイヴ・プロジェクトの下で収集されたニューズレター、雑誌、新聞、冊子、書簡など、稀少な出版物を収録するものです。
収録文書は1970年代から現在にいたる約半世紀間に発行されたものです。この時期、ラスタファリ運動はアフロ・カリブ海地域とアフロ・大西洋地域に拡散し、グローバルに拡大しました。収録文書の多くは、以前は一部の人々にしかアクセスできない状態にありましたが、アーカイヴ・プロジェクトによりジャマイカ、トリニダード・トバゴ、アメリカ、イギリスで印刷されたラスタファリ文化の歴史的・文化的多様性を伝える印刷物が保存されることになり、さらに電子化されたことで、多くの人々が広く利用できる環境が整いました。
収録文書はヨーク大学(カナダ)教授を務めた故キャロル・ヨーニー(Carole D. Yawney)とスミソニアン学術協会のジェイク・ホミアク(Jake Homiak)博士の二人の民族誌学者が収集した資料の他、米国の国立人類学アーカイヴ(National Anthropological Archive)、フロリダ州のルーツ・ファウンデーション・アーカイヴ(Rootz Foundation Archive)により収集された資料を含みます。また、関係する人物や発行の経緯など、収録文献の背景に関する情報も付され、収録文献を同時代の文脈の中で理解することが可能です。
《収録資料》
- Volume 1: Rasta Voice (1971 - 1985)
キングストンのラスタファリ運動協会に所属する活動家により発行されたラスタファリ最初のニューズレター。14年間にわたりジャマイカ国内で流通した。本コレクションには、1971年5月号から1985年5月号まで収録。総ページ数399ページ。 - Volume 2A: JAHUGLIMAN (1978 - 1983)後続のラスタファリの雑誌の定型となったコンパクトサイズのブックレット。3号のみ発行された。表紙は、第1号はモノクロで第2,3号はカラー。総ページ数136ページ。
- Volume 2B: JAHUG (1991 - 2000)
JAHUGLIMANの後継誌。1991年から2000年までロンドンで印刷された。総ページ数428ページ。 - Volume 3: Rastafari Speaks (1980 - 2003)
1980年から1983年までラスタファリ友愛協会によってトリニダードで発行されたタブロイド新聞。1995年から1997年まで発行された第2シリーズと2002年から2003年まで発行された第3シリーズはアメリカのシカゴで発行された。総ページ数426ページ。 - Volume 4: Boboshanti Ephemerals (1982 - 2008)
1982年から1996年までエチオピアアフリカ黒人国際会議(EABIC)により出版された文芸出版物コレクション。”Black Supremacy Handbook”, “General Principles”, “Woman’s League Principles”、公式書簡、宣言、決議を収録。マイアミで印刷されたEABIC50周年記念ブックレットも収録。 - Volume 5: Rastafari International News (1987 - 1989)
1987年11月から1989年8月までエチオピア国際統一会議によってジャマイカのキングストンで発行されたタブロイド新聞。大半はジャマイカで読まれたが、一部は他のカリブ海諸国や北米でも流通した。総ページ数90ページ。 - Volume 6: Rasta Vibrations (1993 - 1997)
1994年から1997年までラス・ジュニア・マニング(Ras Junior Manning)によりジャマイカで発行された雑誌。ラス・ジュニアが発行したブックレット”Members of A New Race”の新版も収録されている。総ページ数168ページ。 - Volume 7A: Reggae Roots (1991 - 1995)
1991年7月1995年2月までジャブラニ・タファリ、エロル・ルイス、デニス・ジャクソンによってフロリダで発行された雑誌。総ページ数612ページ。 - Volume 7B: Reggae Roots International (1996 - 1998)
1996年12月から1998年夏までジャブラニ・タファリ、ジョージ・シム、トニー・チャップマンによりフロリダで発行されたタブロイド紙。総ページ数196ページ。 - Volume 7C: Rootz Reggae & Kulcha (1998 - 2014)
1998年秋からジャブラニ・タファリ、ダグラス・スミス、マイケル・バーネットによりフロリダで発行された雑誌。2014年8月まで収録。マーカス・ガーヴェイとガーヴェイ主義者の発話集も収録。総ページ数1,376ページ。 - Volume 8: Thunder Magazine (2010 - 2014)
2010年から2014年までロンドンのイギリスナイヤビンギ国民評議会により発行された雑誌。
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関連分野
- ラテン系・ラテンアメリカ研究